製造業向け|Qwenを活用したプライベートAI導入例

※実際の費用・期間・仕様は、ご利用人数、既存データの状態、外部システム連携の有無などにより個別に変動します。

ご依頼のきっかけ

本件は、精密部品加工を行う企業様から、「品質管理手順書、加工条件表、設備点検基準などを横断して調べる作業を効率化したい」というご相談をいただいたことがきっかけです。紙や共有フォルダに保管された文書は、必要な情報を知っている担当者でなければ探しにくく、現場から「この材質の加工条件はどの資料にあるか」「異常時の一次対応は何を確認すべきか」と問い合わせがあるたびに、品質管理担当者が原文を探して案内していました。

一方で、顧客情報、加工ノウハウ、品質文書を外部の生成AIサービスへ送信することには社内規程上の懸念がありました。クラウドAI APIを使わず、お客様が管理する環境の中で文書を検索し、根拠を示しながら回答できる仕組みを求められていました。

ご提案やお見積もりのポイント

本案件では、お客様所有のGPUワークステーション上に、量子化済みのQwen3-8B系モデルを導入し、ローカル推論サーバーと社内文書検索(RAG)を構成することをご提案しました。社内LANから利用するブラウザ型のチャット画面で質問すると、登録済みの手順書や品質文書を検索し、参照した文書名・版・ページを示しながら回答する仕組みです。

通常運用中は、質問文、回答、文書本文、検索用の埋め込みデータを外部AI APIへ送信しない構成とします。モデルや依存パッケージの初回取得・更新が必要な場合は、管理者の承認、ファイアウォールの一時許可、取得内容の記録といった運用を前提にします。「完全に何も通信しない」と一律に表現するのではなく、日常の質問応答をローカルに閉じ、更新時の通信を管理する現実的な構成です。

約4週間・税別62万円での導入を成立させるため、初期範囲は、GPUワークステーション1台、テキスト抽出可能なPDF・Word最大30ファイル・約500ページ、利用者アカウント最大25名を想定しています。単一GPUでの同時生成は2〜3件程度を目安とし、25名同時利用、応答時間のSLA、24時間365日の監視・冗長化、既存文書管理システムとの自動同期は初期範囲に含めていません。

技術構成の工夫
項目 採用した技術と理由
LLM推論基盤 Qwen3-8B系の量子化済みモデルを、機器との適合確認後に版を固定して導入しました。vLLMをローカル推論サーバーとして構成し、社内システムから利用できるローカルのOpenAI互換APIを提供します。これは外部のOpenAI APIへ接続する構成ではありません。
文書検索(RAG) PDF・Wordからテキストを抽出し、ローカルで動作する埋め込みモデルとベクトル検索を用いて、質問に関連する箇所を検索します。モデルの追加学習ではなく、登録文書を参照して回答する構成としました。
社内チャットUI 社内LANからのみアクセスするブラウザ画面を用意し、質問、回答、根拠となる文書名・版・ページを確認できるようにしました。
ネットワーク・認証 推論サーバーを外部公開せず、社内ネットワークに限定します。簡易認証を設定し、通常運用時の不要な外向き通信を遮断する方針を確認しました。
品質確認 代表的な質問20〜30件で受入テストを行い、回答内容だけでなく、示された根拠箇所が原文と整合するかを確認しました。
初期範囲に含めないもの

スキャンPDFのOCR、図面・画像内文字・複雑な表の高精度な読み取り、パスワード付きファイルの復旧、文書ごとの細かな権限連携、Active DirectoryやSSOとの連携、既存文書管理システムとの自動同期、モデルのファインチューニング、外部Web検索、モバイルアプリ、オンサイト作業は初期範囲に含めていません。

また、AIの回答は正式な手順・品質判断・承認記録の代替ではありません。根拠文書を表示し、文書内で確認できない内容はその旨を回答するように設定したうえで、最終的な判断は原文と担当者の確認を前提とします。

納品物と機能の規模感

納品物は、顧客所有GPUワークステーション上のQwenローカル推論環境、社内文書検索チャット、導入・運用手順書、構成・テスト結果一覧です。初期投入対象は、テキスト抽出可能なPDF・Word最大30ファイル・約500ページとしました。

利用者ごとの主な操作
利用者 主な操作 実際の利用イメージ
一般利用者 文書に関する質問、根拠箇所の確認 「SUS304の加工時に確認する注意点は?」などを入力し、回答と参照元の文書名・版・ページを確認します。
管理者 文書の初回投入・更新、利用者アカウント管理、基本動作の確認 改訂された手順書を登録し、代表質問で検索結果と根拠表示を確認します。
システムで扱う主なデータ
データ種別 主な項目
登録文書 文書ファイル、文書名、版、更新日、ページ情報
検索用データ 文書から抽出したテキスト、検索用の分割データ、ローカルで生成した埋め込みデータ
設定情報 利用者アカウント、モデル・ソフトウェアの版、検索設定、運用時の確認項目
テスト結果 代表質問、回答、参照元、確認結果、要調整事項
実装する主な機能
  • Qwenによる社内チャット:社内LAN内のブラウザから質問し、ローカル環境で回答を生成する機能。
  • 文書検索と根拠表示:登録済み文書から関連箇所を検索し、回答と合わせて文書名・版・ページを示す機能。
  • 初回文書投入と管理者向け更新手順:対象文書を検索用データとして登録し、改訂文書を管理者が更新するための手順。
  • 基本認証と利用範囲の制限:社内LANからの利用を前提に、簡易認証とネットワーク制御を行う構成。

進行スケジュールと納品までの流れ

本案件は、対象GPUワークステーションへの管理者アクセス、機器仕様、社内ネットワーク方針、初期対象文書、代表質問をご提供いただくことを前提に、約4週間で進行しました。最初に機器とネットワークの適合を確認し、文書の初回投入範囲と受入基準を固定することで、後工程での手戻りを抑えています。

フェーズ 時期 実施内容とクライアント様のご対応
Step 1:機器・ネットワーク・対象文書の確認 第1週前半 GPU、メモリ、空きSSD、OS、社内ネットワークの条件を確認しました。お客様には、対象文書、文書の版情報、代表質問20〜30件、管理者アカウントをご共有いただきました。
Step 2:Qwen推論基盤の構築・起動試験 第1週後半 量子化済みQwen3-8B系モデルとvLLMを導入し、GPU上での起動、コンテキスト長、少人数での同時利用を確認しました。
Step 3:ローカル文書検索とチャットUIの実装 第2〜3週 文書テキストの抽出・分割・インデックス化、ローカル検索、根拠表示付きチャットUI、簡易認証を実装しました。代表文書と質問で検索精度を調整しました。
Step 4:受入テスト・運用手順の整備 第4週前半 代表質問を用いて、回答内容、根拠文書、ページ表示、文書更新手順、外向き通信の制御方針を確認しました。
Step 5:限定運用開始・納品・お支払い 第4週後半 社内利用を開始し、運用手順書、構成一覧、テスト結果一覧をお渡しして納品完了としました。検収後に全額をご請求しました。
お支払い条件について

原則として、着手金などはいただいておりません。ご契約時の前払いはなく、すべての開発作業が完了し、クライアント様による検収が完了した後に全額をご請求しました。

プロジェクトの費用内訳

以下の金額には、Qwen系モデルを用いたローカル推論基盤、初期文書検索、社内チャットUI、受入テスト、導入支援までが含まれています。GPUワークステーションやOS・商用ソフトウェア・証明書などの購入、ハードウェア増設、オンサイト作業、継続保守、外部AI API利用料は含まれていません。

項目 税別費用 範囲
要件確定・基本設計 ¥60,000 利用条件、対象文書、ネットワーク境界、受入基準、構成の確定
推論基盤構築 ¥120,000 Qwen量子化モデル、vLLM、GPU起動試験、ローカルAPI設定
RAG構築・初期データ投入 ¥140,000 ローカル抽出・埋め込み・検索用インデックス、対象文書30ファイルまでの初回投入
チャットUI・基本セキュリティ設定 ¥120,000 社内LAN向け画面、簡易認証、根拠表示、外向き通信制御方針の確認
テスト・チューニング ¥100,000 代表質問20〜30件による回答・根拠確認、初期設定の調整
手順書・引継ぎ ¥80,000 運用・再投入手順、構成・バージョン一覧、テスト結果一覧、管理者向け説明
合計 ¥620,000 税込 ¥682,000
ご利用開始後の月額費用の目安(補足)

標準構成では、外部AI APIやクラウドLLMの従量課金を利用しません。社内の既存ネットワークとお客様所有のGPUワークステーションを利用する前提では、第三者クラウドサービスの月額費用は原則として発生しません。ただし、電気代、ハードウェア保守・更新、任意のバックアップや監視サービス、必要に応じた保守支援は別途必要となります。

項目 税別月額の目安 費用の性質と主な内容
外部AI API・クラウドLLM利用料 ¥0 標準構成では利用しません。質問・回答・文書データを外部AI APIへ送信しない運用を想定しています。
任意のバックアップ・監視サービス(実費) ¥0〜¥3,000 既存の社内バックアップに加え、暗号化バックアップや監視通知を追加する場合の第三者サービス費用です。
最低限の保守・運用サポート ¥15,000〜¥25,000 OS・依存パッケージ・モデル更新方針の確認、基本動作確認、軽微な設定相談を含みます。大規模な再構築や文書追加作業は別途お見積もりです。
月額合計の目安 ¥15,000〜¥28,000 上記を前提とした保守費用の目安です。別途、お客様環境での電気代やハードウェア保守・更新費が発生します。

担当者コメント

プライベートAI・ローカルLLM導入では、「クラウドAIを使わないこと」だけを目的にするのではなく、どの文書を対象にし、誰がどの環境で使い、何を根拠として回答させるかを最初に決めることが重要です。今回はQwen3-8B系の量子化済みモデルを、お客様所有のGPUワークステーション上で動かし、初期範囲を社内文書の検索支援に限定しました。モデル自体を追加学習するのではなく、RAGで登録済み文書を参照させる構成にしたため、約4週間・税別62万円で導入できる規模に整理できました。

また、外部AI APIへ業務データを送信しない構成であっても、利用者がAIの回答をそのまま正式な手順や品質判断として扱わない運用が大切です。回答とともに根拠文書・版・ページを示し、確認できない場合には「文書内で確認できない」と回答することで、文書を探す時間を減らしつつ、最終確認は原文と担当者が行う形にしました。

Qwen等を使ったプライベートAI・ローカルLLMの導入は、既存の社内PC・サーバーを活用できる場合があります。詳しくはプライベートAI・ローカルLLM導入をご覧ください。CPU・GPU・メモリ、文書の状態、ネットワーク方針、必要な応答速度に応じて、モデルや構成は個別に選定します。

よくある追加開発の目安

運用が定着し、スキャンPDF・図面・画像内文字も検索対象に含めたい場合は、OCR処理と文書整形、精度検証を追加する必要があります。この場合、対象資料の状態によって、税別30万〜60万円、約4〜6週間程度の追加開発となるケースがあります。

また、Active DirectoryやSSOとの連携、文書単位の閲覧権限、詳細な監査ログを追加する場合は、既存の認証・文書管理環境の確認が必要です。一般的には、税別40万〜80万円、約4〜8週間程度の追加開発を想定します。

まずは、テキスト抽出可能な重要文書に対象を絞り、根拠を示す社内検索から始めることで、機密性への配慮と利用価値の両立を目指せます。利用状況を確認しながら、OCR、権限連携、文書同期、より大きなモデルや複数GPU構成へ段階的に拡張していくことが可能です。